皐月歌会[令和三年]

コロナ感染がなかなか終息に向かわないこともあって、今月の歌会は欠席者多数のため中止となりました。

それでも季節は同じように巡ってきます。

我が家は川沿いにあって、この時期になると、川の中州に甲羅を干していた亀が川の堤防を乗り越え、庭の中へ卵を産みにやってきます。一体亀たちが何を基準に選んでいるのかその場所は毎年違って、道の真ん中だったり、柵の際だったり、とんでもない場所を選ぶこともあります。ですが礼儀?はわきまえているのか、大切なお花畑の中へ踏み入ることはなく、主とトラブルになることもありません!

時間はほぼ決まっていて、寝ぼけ眼で、朝食のお味噌汁に入れる薬味を採るために庭へ出た時で、後ろ足で必死に穴を掘っていたり、目尻から涙を流しながら卵を産み落としているさなかだったり、産んだ卵へ土をかけ綺麗に均している時だったり、それぞれです。今日も私の足音に気がつくと、危険を察知して、鋭い目でこちらを睨みつけてきました。亀の気持ちもわかりますが、私の方も、30センチ程もあるグロテスクな甲羅をもつ亀にふいに遭遇するわけですからびっくりです! 思わず、何もしないから!!と小声にしばらくは息を殺して見守りました。何やらドキドキしながらも、ゆっくりとした動作でこつこつと事を成してゆく亀の様子にこの生の営みが長寿である所以なのだろうと、毎日をあくせく余裕のない自分を省みた朝でした。

 

[5月号誌上より]

・春陽かげ白抜き暖簾の店先に雛菓子ならぶ城下町なり(金丸満智子)

・朝々を紅筆探すこともなく桃色あはきマスクして行く(井口慎子)

・お雛様段に飾りて甘酒をいただきし春かつてありけり(山本浩子)

・観音に額づきゐれば若き日に悩みしことはあはあはとして(中川りゅう)

・庭落葉よせゐる下の草の芽に春をしづかに待つ思ひあり(中川寿子)

・子どもらと声そろえ豆まきし日よ今宵ひとりの福は内なり(後藤まゆみ)

・如月の澄める鈴鹿嶺撮らむとす人侵されぬ点景と見ゆ(中世古悦子)

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