如月歌会[令和四年]

ここ四、五年は暖冬で、節分に鬼を払えばもう春めいていたように記憶していますが、今年は全国的にいつまでも寒く、鈴鹿でも何度も雪が散らつきました。先日も目が覚めた時その明るさに、なんて強い春の日差しなんでしょう!と窓を開ければ一面の雪!!思わず感嘆の声を上げました。鈴鹿は一年中で一番寒い二月でも、雪に閉ざされることは稀にしかなく、降ったとしても、大抵は一日でほぼ溶けてしまうことが多いので、雪へのイメージは、厳しさよりも美しさの方が勝ります。しかし今年は勝手が違い、北国で暮らす方々へ思いを馳せました。それでも季節は確実に巡り、ひな祭りを前にようやく春も重い腰を上げたようです。

『新青虹』二月号冒頭の文章『百年は心に近し』に載せられた釈迢空のお歌をご紹介します。水本編集長が、昨年京都の古書市で求められたという、大正十年の『アララギ』四月号に発表されていた『夜ごゑ』より5首

・長き夜のねむりの後もなほ夜なる月おし照れり河原すが原

・川原の樗の隅の繁み繁みに夜ごゑの鳥はい寝あぐむらし

・湍を過ぎて淵によどめる波のおもかそけき音もなくなりにけり

・水底にうつそみの面わ沈透き見ゆ来む世も我のさびしくあらむ

・合歓の葉の深きねぶりは見えねどもうつそみ愛しきその香たち来も

秀歌は、何度も何度も読み返すうち、その情景が目からどんどん心の奥へ分け入って、読む人それぞれの心象とつながり、思いもよらない世界をも見せてくれます。

[二月号誌上より]

・江戸へ発つ船見送りし遊女らの祈り沁みにし砂や秋冷ゆ(金丸満智子)

・枯れし桃伐りし残りは身を支へ暮れゆく庭の道しるべなり(井口慎子)

・新しき鞄に替えて古き物捨つれば老の身も軽くなり(中川りゅう)

・聞き慣れぬ真珠湾とふ言の葉にとまどひ見する生徒らもあり(山本浩子)

・母愛でし真葛色づくひと枝を居間の遺影に近く供ふる(後藤まゆみ)

・共に古る家に偕老願ひつつ小春の縁にささくれを剥く(中世古悦子)

・杜かげの古本市にカブトムシ瀕死にゐるは誰も見向かず(水本協一)

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