弥生歌会【令和二年】

新型コロナウイルスにより不自由を強いられている方も多いと思います。日に日に深刻となる情況に、何とか早く終息するのを祈るばかりですが、三重支部会には予定通り皆様お元気にお集まりいただきました。

中でも盛り上がったのは、三月号掲載の金丸同人の「伝聞荒神山」と題した十一首のお歌です。慶応二年(1866)、伊勢の博徒である神戸長吉と穴太徳の縄張り争いは荒神山に最終局面を迎えました。そこへ助っ人として加勢した吉良の仁吉が撃たれ、その知らせに弟分の清水次郎長が480余人を動員して2隻の船を仕立てて乗りつけたという史実によります。それを浪曲で伝える広沢虎造の名調子も飛び出し、束の間憂いを忘れた楽しい歌会となりました。もちろん、情趣豊かなお歌ばかりです。

・杉木立ふかく博徒ら死闘せし寺やむかしのままに冬づく
・青錆びし鐘を支ふる一柱に仁吉たふれし彈のあと冷ゆ
・秋さめの日に残されし主なき道中合羽の縞うすれつつ
・荒神山仁吉最期は虎造の撥音と七五に語りつがれき
(金丸満智子)

その他誌上より

・相槌をうつが愉しくをさな児の話ききつつ散る紅葉見る(井口慎子)

・にぎやかに缶を鳴らして先祖迎ふシチリア島の山の町なり(山本浩子)

・止まりつる車の前をまよひ舞ふ小さき蝶はいづこへ去らむ(中川りゅう)

・懐しき友の来れば在りし日の夫の面差しさへよみがへる(中川寿子)

・父ははの縁に親しく交はしゐし文絶えがちに彼の人逝きぬ(児嶋靖子)

・道の辺のゆるる尾花のわびしけれ絹糸めける白毛陽に映ゆ(後藤まゆみ)

・師走なる川の冷たみ知る由もなき月光にしばし夢寄す(中世古悦子)

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